
入門編でスイッチ回路の作り方やLTspiceの使い方はわかったけど
部品の原理や応用がよく分からないや
以前紹介した記事(スイッチ回路解説)ではLTspiceを使ってスイッチ回路の作図から
シミュレーション結果の確認までを行いましたが、
なぜそこに抵抗を置くのか?
なぜそれでスイッチするのか?
について詳しく触れていなかったのでここで改めて解説したいと思います。
スイッチ回路の概略
1秒おきにLEDを点灯するスイッチ回路の例

V1の信号源から3Vの矩形波が発生
⇨V1の電圧がHIGH(3V)になったとき抵抗R1に2.2mAの電流が流れる。
⇨npnトランジスタQ1のベース(B)からエミッタ(E)に電流が流れ、
⇨コレクタ(C)-エミッタ(E)に増幅された4.4mAの電流が流れる。
⇨つまり、負荷(LED)に電流が流れ点灯する。
これがスイッチ回路の電気的な流れになる。
それではさらに細かく解説を進めます。
そもそもなんでスイッチ回路で電流を増幅するの?
npnトランジスタは、ベース-エミッタ間に電流が流れるとコレクタ-エミッタ間に増幅した電流を流す特性がある。

でも、なんで増幅した電流を流さなきゃいけないの?
そもそも信号源から負荷に電流を流しちゃいけないの?
確かに、それは誰もが思うかもしれませんね。
では実際にスイッチ回路が使われる場面を想定しましょう!
例えば、イルミネーションのように1,000個ものLEDが同時に点灯する制御を考えます。
先ほどのシミュレーションではLED1個につき2.2mAの電流を消費していましたね。
1,000個では2.2Aになります。
この電流を信号源のマイコンから引っ張ることは出来るでしょうか?
答えは「ほとんどの場合不可能です」

マイコンやArduinoといった信号を発生するもののIOポートには定格電流があり、
最大で数10mA程度が一般的です。
つまり信号源から負荷を直接制御することは難しく
別のルートから負荷用の電源を用意し、信号源をスイッチとして利用する必要があります。
ベース抵抗、プルダウン抵抗とは
トランジスタのベース端子側に配置されている抵抗「ベース抵抗」
これは信号源のIOポートにおける定格電流を遵守するためにベース抵抗を配置します。

先ほど説明した通りマイコン等には各端子ごとに定格電流が決められており、
さらにIOポート全体でのトータル定格電流も定められています。
定格電流を超えないための抵抗を選定する必要があります。
今回、信号源は”3V”、npnトランジスタのVceは”0.8V”
ベース抵抗にかかる電圧 ”Vb = 3.3[V] – 0.8[V] = 2.2[V]”
IOポートの定格電流が10mAであると仮定した場合
ベース抵抗 Rb > 2.2[V] / 10[mA]( = 220[Ω])
つまりベース抵抗は220Ω以上であれば定格電流を超えない事になる
今回は余裕を持ってベース抵抗を”1kΩ”とした。
このような流れでベース抵抗を算出する。
※負荷に流す電流とトランジスタの電流増幅率も検討要因のため後ほど説明します。

次にトランジスタのベースと GNDに接続した「プルダウン抵抗」
これは信号源をLOWにしたときにベース側の電荷を逃すためにある。
HIGHの状態で溜まった電荷は、信号源側ではなくプルダウン抵抗を通して抜ける。
信号源側のIOポートはLOWになった際、数10MΩとなっているためこの端子から電荷は抜けにくい。
そのため、プルダウン抵抗がないとONからOFFへのトランジスタの切替が遅くなる。
※プルダウン抵抗は10kΩが多い。
この2つの抵抗はトランジスタを使うときに多用されるため
元からトランジスタとパッケージ化されたものがある
それが「デジタルトランジスタ(通称:デジトラ)」

部品の点数も減らすことができ、小型化することも出来るためよく使われる。
トランジスタによる電流増幅とは
トランジスタはベース電流を増幅してコレクタ-エミッタ間に電流を流すことが出来ます。

今回のLEDを点灯するには抵抗R3に流れる電流を計算する必要がある。
定電圧V2は”5V”、LEDの順方向電圧は”0.7V”、トランジスタのVceは”0.04V”
R3にかかる電圧は Vr3 = 5[V] – (0.7[V] + 0.04[V]) = 4.26[V] となり、
よって、R3に流れる電流は Ir3 = 4.26[V] / 1k[Ω] = 4.26[mA] となる。
トランジスタの多くは電流増幅率hFEが”数10〜数100”あるので、
今回の増幅率2倍程度は問題なく電流が流れ、LEDは点灯する。
応用【電流増幅率引上げダーリントン接続】
次に応用としてLEDのような小さい負荷ではなくモータのように大きい負荷の場合の増幅率の上げ方を紹介します。

npnトランジスタを2つ並べて増幅率を倍増させる方法「ダーリントン接続」
回路図の上の方は先ほどと同じトランジスタによるスイッチ回路ですが、
負荷が10Ωになっていて、電圧5Vに対して0.5Aの電流が必要なことになります。
今回のシミュレーションでは”ベース抵抗を0.5kΩ〜5.5kΩまで1kΩ毎”にシミュレーションを動かしています。
その結果、ベース抵抗値が上がる毎にベース電流は下がっていることが見えます。
それに伴って負荷電流も供給できていない状態となっています。
この場合、トランジスタのhFEが”100”倍であってもベース電流が小さすぎて
負荷に対して増幅率が足りていないと言うことになります。
一方で、ダーリントン接続の場合、
ベース電流は下がっていますが、負荷電流は常に最大で流れていることが分かります。
これは、トランジスタの1段目Q01で増幅された電流が2段目Q02のベース電流となりさらに増幅することで増幅率を上げていることになります。
この2段の増幅率は hFE = hFE(Q01) × hFE(Q02) となります。
この場合、トランジスタを2段にすることでベース-エミッタ電圧は上がるのでベース電流が小さくなることは気をつけましょう!
このダーリントン接続もパッケージ化されたICがあるのでそれを使う場合も多いです。
まとめ
今回の内容は理解できたでしょうか?
回路の中でには抵抗やコンデンサ、トランジスタが大量にあってなんとなく「おまじない」的に部品を使っていることもありますが、実際にはきちんと理由があります。
回路の部分的な理解から接続先の仕様まで理解できるとより確実な回路が組めるようになると思います。
トランジスタはICの基礎になるので、ぜひ原理から学ぶと面白いです!
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